結局、だれがつくったの? 教育機会確保法から考える、日本の学校・教育の未来

教育機会確保法 不登校と親
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郷原
郷原

前回教育機会確保法に書かれている内容を解説しました。

今回は、その成立までの教育政治の動きを見ていきます。そうすれば、10年後日本の学校・教育がどうなっていくか見えてきます。

教育の裏側 活躍する4つのグループ

シンプルな捉えですが、およそ日本の教育を動かすグループはこの4つに分けられます。以下、それぞれの特徴を見ていきます。

自民党(規制緩和グループ)

郷原
郷原

このグループの中心人物は、第2次安倍内閣で文部科学大臣を務めた下村博文氏です。

はむた
はむた

彼には、イギリス留学で多様な学生と交流した教育経験もあるんだな。

日本の国家戦略として、経済の持続的発展・財政削減・少子高齢問題を解決する方向として、「強く自立した個人」「自己責任社会」「全員参加型社会」が目指されています。そのために、規制緩和が必要だと考えるグループが自民党内にあります。

成立が難しいと思われていた教育機会確保法が成立するまでに推し進められたのは、自民党の規制緩和論と不登校支援が一致したからです。

規制緩和して不登校支援をすれば、不登校の子どもたちも教育を受けられます。それは、長期的に見れば、経済の持続的発展・財政削減・少子高齢問題につながると捉えられます。単純な図式にしますと、不登校→教育を受けられない→働けない(経済発展に貢献できない)→財政負担という負の連鎖を、初めの段階で断ち切るという発想です。

フリースクール全国ネットワークと民主党

2001年にできたフリースクール全国ネットワークは、全国のフリースクール等が協力して教育選択の多様化を進める事業をしています。

その思いの中心は、「子どもの学ぶ権利」にあります。しかし、教育の多様化という点で、上述した自民党の規制緩和グループと親和的です。そのため、これから見ていく法整備の流れでも、自民党規制緩和グループと同じ方向を向いて運動を展開することが多く、教育機会確保法の制定にも大きく寄与しています。

はむた
はむた

子どもの能力開発や経済成長というところではなく、子どもの学ぶ権利に焦点があるんだな。

親の会ネットと社民・共産党

子どもの権利を尊重し、当事者とフリースクールへの支援が必要と考えるグループです。その点では、フリースクール全国ネットワークと同じなのですが、学びの場の多様化には慎重です。

それは、学びの場の多様化は、教育の市場化を招きかねないと考えているからです。民間が自由競争ではいってくると、教育の質にばらつきがでます。そこに巻き込まれる子どもたちにも自由競争が強いられ、競争に敗れた子や経済的に恵まれない子には質の低い教育が提供されることになると考えられるということです。

そのため、「学校」を軸とした共通・共同の義務教育を求める立場をとっています。

郷原
郷原

フリースクールにも様々な立場のフリースクールがあります。市場化に危機感を抱いているフリースクール経営者も多いです。

自民党(国民統合グループ)最多数派

自民党内多数派であり、最終的にこのグループが主導権をにぎって、現在の教育機会確保法ができました。

そのために、教育機会確保法はあくまで「学校」が原則であり、「学校以外の場」は例外というスタンスです。

このグループは、義務教育が国民形成や社会統合に果たす役割を重視しています。全員が同じ教育を受けることで、日本人としての自覚や一定の(労働者として役立つ)能力を獲得することが期待できます。ですので、教育の規制緩和には批判的です。

はむた
はむた

国民形成・社会統合と聞くと、戦前の日本のようで怖いかもしれないけど、国家としてこの地球で生き残っていくには大切な仕組みなんだな。

郷原
郷原

明治時代に「国民」は生まれた(作られた)という言い方もあります。

明治時代に学校教育がはじまって、はじめて「日本人」が生まれたんですね。

教育機会確保法制定までの流れ

郷原
郷原

制定までには大きく3つの時期があります。順番に紹介していきます。

フリースクール全国ネットワークによる政策提言(2009年~2014年)

1970年頃から、「登校拒否」が教育問題として注目されるようになりました。

その後、1980年頃から、親を中心に「登校拒否を考える会」やフリースペース・フリースクールが全国に組織されるようになりました。

2001年にフリースクール全国ネットワークが組織され、積極的に政治に働きかけていきます。その中で、2008年にフリースクール環境整備議員連盟が発足します。

フリースクール全国ネットワークは、2009年に第1回日本フリースクール大会を開きます。

その後、フリースクール全国ネットワークは議員連盟に政策提言し、法案作成に入ります。その内容は、およそ以下のようなものでした。

多様な学びを保証する法律(案)

・普通教育(9年)を受ける権利を「学校以外」でも行使できるようにする教育義務制

・学習機関の登録制

・保護者への学習支援金給付

・国・自治体による「多様な学びの場」の支援と質保障など

学校以外の「多様な学びの場」としては、ホームエデュケーション、フリースクール、子ども居場所、シュタイナー学校やデモクラティックスクール等のオルタナティブスクール、ブラジル学校やペルー学校などの外国人学校、自主夜間中学などが想定されていた

はむた
はむた

この法案では、自分の義務教育として学校でもフリースクールでもホームスクールでもその他さまざまな教育機会でも、行きたい所を自由に選択できるものを想定していたんだな。

超党派フリースクール等議員連盟(2014年~2016年)

2012年の総選挙で、フリースクール環境整備議員連盟のメンバーの多くが落選し、議員連盟は解散されます。そこで、フリースクール全国ネットワークの働きかけで、超党派フリースクール等議員連盟が発足されました。

この時はちょうど第2時安倍内閣発足時期で、下村博文氏が文部科学大臣兼教育再生担当大臣を務めていました。この下村大臣のもとで、不登校支援の政治が急ピッチで動き出します。

はむた
はむた

文部科学省の中に、フリースクール担当のチームが設置されたのもこの時期なんだな。

2014年には、安倍総理や下村大臣がフリースクールを視察したこともありました。翌年には、国会施政方針演説で、安倍総理が、不登校を経験した娘をもつ母親からの手紙を紹介しながら、フリースクールなどでの多様な学びを支援すると述べたこともありました。

郷原
郷原

これほど不登校対策やフリースクールへの支援が検討された背景には、上述した自民党内の規制緩和グループの存在があります。

しかしながら、フリースクール等議員連盟の馳座長は、上述「多様な学びを保証する法律」は受け入れられないと拒否します。「学校」とフリースクールなどを同等に扱う法律の成立は難しいという認識が背景にあります。

そこで、2016年にフリースクール等議員連盟と夜間中学校議員連盟の合同での総会が開かれます。馳座長は、「多様な学びを保証する法律」の代わりに「義務教育段階における普通教育に相当する多様な教育の機会の確保等に関する法律案」を提示しました。そこでは、「学校」と「学校以外の多様な教育機会」という位置づけがなされました。

はむた
はむた

この位置づけでは、原則学校、例外その他の教育となるんだな。

郷原
郷原

上述した「多様な学びを保証する法律」とはずいぶん違いますね。

それでも、フリースクールが法的に位置づけられることに価値を見出したフリースクール全国ネットワークなどは、法案の制定に向けて運動を展開します。

ここで、法案に反対運動をはじめたのが、親の会ネットと社民・共産党です。主な反対の理由は以下のものです。

・「個別学習計画」は家庭への介入になる(望まぬ「教育支援」)

・学校籍と教育委員会籍の二重化による差別も生まれる

・義務教育の民営化、自由競争化が生じる

はむた
はむた

全員に同じ「学校での一定の教育」が保証されていることが、平等であるという感覚なんだな。

さらに、自民党多数派の国民統合グループからは、「不登校を助長する」「全員に同じ学校教育をうけさせるべき」との意見が出て、法案は賛同を得られず頓挫しました。

郷原
郷原

前半に説明した4つのグループがそれぞれの立場から意見し、法案は定まりません。しかし、これこそ私たちが大切にする民主主義のいいところです。独裁者がいれば1日でできる法律を私たちは10年以上かけてつくっているのです。

教育機会確保法制定時期(2016年)

2016年第3次安倍内閣で、馳座長が文部科学大臣になります。そのため、両議連合同総会の座長は丹羽氏になりました。

丹羽氏の案の主な内容は以下のものです。

・馳座長試案から「多様な」という言葉を取り去る

・「個別学習計画」や就学義務のみなし規定も削除

・不登校の子どもが安心して教育を受けられるような学校の取り組みの支援

・「学校外の多様な学習活動」を行う不登校の子どもへの支援、

・不登校特例校や教育支援センターの整備

はむた
はむた

前回解説した教育機会確保法の内容とほとんど同じなんだな。

フリースクール全国ネットワークと民進党は、フリースクールが学校以外の学習に位置づけられたことに一定の価値を見出していますので、法案成立に向けて運動します。

しかしこの案には、親の会ネットと社民・共産党から「学校復帰の強化策」だという批判がなされました。

親の会ネットと社民・共産党の要望は以下のようなものです。

・居場所の保障


・不登校の「欠席の正当な事由」としての容認


・いじめ被害の救済


・「普通教育」以外での教育の保障

しかし、自民・民進・公明・維新の賛成で法案は可決されました。

まとめ

なにが政治を動かしたのか

法案の成立までに大きく前進できたのは、自民党の規制緩和グループの存在が大きいです。

安倍総理のもと、下村大臣は「全員参加型社会」を目指して、個人の能力を向上させるための規制緩和を進めました。その中で、「学校」だけにこだわってきた日本の教育に「その他の多様な教育」が入ってきました。

その流れに乗ったのが、フリースクール全国ネットワークと民主党(民進党)でした。対立する軸はあるものの、教育の多様化(規制緩和)の方向で一致し運動を推進しました。

しかしながら、自民党の多数派は国民統合(社会統合)グループです。そこでは、教育の規制緩和は受け入れられません。そのため、あくまで「学校」だけを教育の軸とした不登校支援にとどまりました。

はむた
はむた

この捉えは、おおざっぱではあるんだな。でも、このように日本の政治・教育をつかめば、今後どうなっていくのか考えるベースになるんだな。

10年後日本の学校は、教育は

郷原
郷原

法律としては、国民統合(社会統合)グループの望む通り「学校教育が唯一の軸」のままです。

フリースクールでの出席・卒業は認められませんし、フリースクールへ公的資金が投入されるという文言もありません。

しかし、現場は変化しています。

不登校の子どもはもちろん、学校の先生も、フリースクールの価値を感じています。自治体によってはフリースクールへ通う家庭への資金援助を実施するようになってきました。

10年後、この流れは加速しています。そしてその現実を受けて法律が変わっていくものと思われます。

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